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アンステイブルラブガーデン(6)

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 祐……今頃、何してるかな。萌恵ちゃんと会えたかな。
 さっきのハグはちょっとドキドキした。顔を埋めると久しぶりに甘えたくなったけど、みっともないし恥ずかしいからそんなこと出来ない。子供の頃、一緒に遊んだ時のことを思い出した。
 もう少し……あのままでいたかった。
 小さく溜め息をついた。
 そんなことより。
 わたしは新しい中学校に向かって歩いていた。周りは同じ制服の女の子や男の子で一杯だ。
 寂しいな、と思った。
 みんな小学校からの同級生と話しながら歩いていた。でもわたしには知り合いなんか一人もいない。不安で胸がきゅうってなった。
 その癖に、わたしの風貌は周りの視線を集めていた。慣れてるけど、なんにも感じない訳じゃない。自分のカラダは好きだけど、こういう時はちょっと複雑な気分。
 黙って歩いているうちに、中学校が見えてきた。
 島の小学校よりずっと大きかった。横に祐の大学も少し離れて並んでいて、なんかお城みたい。迷子になりそう。
 道の途中で男の子と女の子が二手に別れた。男女で校舎が違うらしい。うるさい男子の相手をしなくてもいいのはちょっと嬉しいけど、つまんない気もする。
  そんな風に考えている時もずっと一人だったから、退屈だった。ぼんやりあくびしながらつまんない入学式を終えて、教室に入った。机や椅子が新品で綺麗だった。
 わたしは真ん中の席だった。
 それにしても教室に女の子しかいないのは変な感じだった。空気がぽわぽわしてる感じ。
 はあ、一人で考えててもつまんないなぁ……。
 机にうつ伏せになった。 はやく誰か、話しかけてくれないかなぁ。
「ねぇ、あの人誰?」
「髪、すごく綺麗だよね」
 ここでそれが来た。いつものパターン。起き上がって、会話の聞こえる方を向いた。
 元気そうな子と、静かそうな眼鏡の子。
「あ、目もブルー……あなた、ハーフなの?」
 ポニーテールの子が話しかけてきた。
「うーん。そんな感じ。でもずっと日本にいたよ」
 わたしが喋るのを、二人はまじまじと見ている。
「へぇ……まーちゃん、この人すごい! お人形みたい」
 もう一人の眼鏡の子がおっとり感動したみたいに呟いた。ポニーテールの子はらんらんと目を輝かせてる。
「うんうん。ミドルネームとかあるの?」
「それはないかも」
「そっか、あはは。じゃあなんて名前? わたしは|入月真子《いりづきまこ》。眼鏡かけてるのはあかり」
「彩です。はじめまして。真子ちゃんは、まーちゃんって呼んでいいの?」
「呼び捨てでもなんでもいいよ」
 そう言ってにっこりした。明るくて可愛い子だと思った。仲良くなれそうだった。わたしをじろじろ見てるあかりって子もゆっくりしていていい感じ。
「でも本当に髪の毛綺麗……! 明るい色で、きらきらしてる」
「そんなに言うなら、あかり、染めちゃえば?」
「染めてもこんな綺麗になんないよ。先生に捕まるし」
「いいじゃん、イメチェンだよ。地味キャラやめて不良になっちゃえ」
「やだよ、考えるだけで恥ずかしい」
 二人は楽しげに笑ってる。わたしも仲間に入りたい。
「ねえまーちゃん――」
 話しかけたところに、声が被さった。
「まこ、おっはよー」
 背が高くて胸も大きい子が、まーちゃんに後ろから抱きついた。
「おー沙織、おはよっ。今朝はあの後、しゅん君と話出来たの?」
 沙織ちゃんは、髪の毛がくるくるしてる。軽い天然パーマ?
「それなんだけどさぁ」
「なになに? 進展しちゃった?」
「今日の放課後、春小のみんなでカラオケ行かないかって。入学パーティー」
「なんだ。知ってるよ」
「さすがまーちゃん。情報通」
「そんなことないって。あ、そうだ」
 まーちゃんがくるっと振り返って、わたしに笑顔を見せた。きょとんとした。
「この外部生の子、連れてっていいかな」
「誰? 外国人なの?」
「今友達になったあやちゃん。ハーフっぽい。綺麗でしょ?」
「ほんとう! さっきからブロンドの子がいて気になってたの。こんにちはあやちゃん。一緒にカラオケ行こっ」
 急展開に頭がごちゃっとした。よくわかんないけど、誘われてるみたい。
「えっと――」
「日本語喋ってる! よろしくね、わたし沙織。今日は面白いゲストが出来たーやったーっ」
「なになに沙織、ゲスト?」
 だんだんと、興味津々な視線が集まってきた。人がわたしの周りに集まってくる。
 こんなにたくさん集まってくるのは初めてだった。人が多すぎなのも、案外嫌じゃないかも。

》》》

 入学式は書類を渡されたくらいですぐ終わり、サークル勧誘も適当にいなして、俺は水無月と街中を歩いていた。
 通りは、入学式が終わった大学生で賑わっていて、楽しげな雰囲気に満ちている。
「それでさ、水無月さんはお昼ご飯どこに行きたい? 俺はなんでもいいよ」
 水無月は小さな荷物を両手で前に持ち、俺の隣で粛々としていた。前髪で隠され、瞳に何を映しているかもわからない。
「ええと……蒼崎さんの、行きたいところでいいです」
「遠慮しなくていいって。春木に来たばかりで、まだ全然金使ってないんだ」
「はい……」
 水無月は相変わらず反応が薄い。
「じゃあ二人で適当に探そうか。街探検みたいな」
「は、はい……」
 困った……彼女の姿が見えてこない。もっと彼女を知りたい。
「水無月さんって、何かマイブームってある?」
「マイブーム……ですか?」
 あえて曖昧な聞き方をした。ゆっくりと俺を窺う水無月。
「趣味なら……少し」
「おお! 俺はこれと言って趣味はないんだけど。すごいね」
「そんなことない、です」
 水無月がなんだか恥ずかしそうに首をふる。
「ピアノ……弾けます」
「マジ? すごいね! 俺なんか音符読めないよ」
「でも、大したことは……」
 言葉とは裏腹に少し口許を緩めている。
「いいや、大したもんだよ……指とか物凄い速さで動くんでしょ?」
「それは……それなりに」
「今度聞かせてよ」
「でも……」
「いいからいいから! 俺、クラシックとか全然詳しくないから、生演奏聞けるだけで感動だよ」
「は、はい……なら、わかりました。頑張ります」
 面白いことを聞けた。このまま上手く事を運ばなければ、そう思い頭を働かせる。水無月は、どう考えてもインドア派、服装からして窓際のお嬢様タイプだ。適当なファーストフードを食わせて機嫌がよくなるはずがない。
「よし、こっちいこう」
「はい」
 大通りから外れた。
 少しずつ、周りの人が少なくなり、活気が無くなる。代わりになんだか品のある建物が並ぶようになる。
「水無月さんは、もしかして静かなところが好き?」
「……そうかもしれません」
「俺は賑やかなほうがいいんだけどね。ここらへんの建物、俺の島と変わんなくてワクワクしないんだよ」
「そうなんですか? いい故郷だと思います」
「そうかな……? 俺にとっては、慣れすぎててちょっと退屈なんだけど」
「隣の芝は、青い……と言いますし」
 水無月の声を聞きながら、ふと気が付いた。
「っていうことは、水無月さんはやっぱり都心に住んでるの?」
 水無月が体を硬くした。
「……秘密です」
「あー、ごめん。聞いちゃいけないのかな」
 ちっとも素性がわからない。想像が掻き立てられる。そういえば、彼女は地下鉄に乗ったことがないと言った。それなら都会でもないようだ。じゃあ……一体?
 頭をひねるうちに、目に留まるものがあって、考えるのをやめた。
「あっ、あの店どうかな」
 それは、マンションの下に続く階段。イタリア語の看板が喫茶店であることを示している。こういうお洒落というか隠れ家的なのが、水無月は好きそうだし、
「いいですね」
 実際認めてくれた。
 降りていくと、店は空いていた。白髪で、髭も白いお爺さんが、グラスを磨いている。老いてはいても目許はキリリとしていてカッコいい。
「おや、昼間からお客……」
 目を細めて、俺たちを幽霊でも見るように凝視している。低い声でゆっくり呼び掛けた。
「お二方、ここは居酒屋だよ。まだ準備中なんだ……それ以前にそんなに若い人が来るところじゃない」
 居酒屋? 失敗した。所詮俺は田舎者。勝手はまだわからない。
 出ようと思ったが、そうはならなかった。
「ごめんなさい……少しの間、お邪魔させてくれませんか……」
 水無月がか弱い声で言いつつ、静かに頭を下げる。さらさらと髪が流れる。
「お嬢さん……?」 
 お爺さん――バーのマスターは眉をひそめて彼女を見ていた。困っている表情だった。
「わかったわかった、いいよ……飲み物だけなら出せるよ」
「水無月さん……いいの?」
「座りましょう」
 俺は彼女の行動にどぎまぎしながらも、カウンターに座った。

 二人でとつとつと言葉を交わしながら、ジュースを飲んだ。静かな洋楽が流れ、ゆっくりと時間が過ぎて行く……どこか安らぐものがあった。こういうのも悪くない気がした。
 水無月も段々とリラックス出来ている感じだった。だから泣く泣く空腹はこらえ飲み物を胃に注ぎ込む。
「俺、思ったよりこういう雰囲気のお店好きかもしれない」
「私は……好きです」
 ぼんやりと店内を見渡す。
 よく見ると、暗がりに黒光りする、大きな机のような物がある。埃は乗っていなく、頻繁に使われているようだ。きっと夜には演奏の中、おっさんが酒を飲んで一夜を過ごすのだろう。
「ピアノあるじゃん」
「えっ……待ってください」
 水無月が困った顔をするのを無視して、マスターを呼ぶ。
 相変わらずグラスを拭いていたお爺さんは、人の良さそうな笑顔を浮かべる。
「何かご用件で?」
「あのピアノって、使っていいですかね」
 マスターは目を細めて笑う。
「弾くのはお嬢さんかな? 折角の機会だから、僕も聞かせてもらおうかな」
「……今ですか」
 水無月は小さく言う。
「たのむよ」
 お願いすると、水無月は無言で席を下りた。もう彼女の演奏が聞けるとは!
 静かに歩いていって、グランドピアノの椅子に腰かけた。
 マスターがスイッチを操作し、パッとライトが当たる。薄暗い店内で、彼女は輝いた。
 瞠目した。
 慣れた様子で椅子の高さを調え、鍵盤の覆いを持ち上げる――その様子は、整然と落ち着いていて、優雅だった。
 はっきりしなかった、彼女の姿が見えた気がした。水無月が存在している場所が、やっとわかった。
「……いいピアノです」
 呟いて、白黒の鍵盤に指を乗せ、表面を撫でる。いとおしむように。
 空気が、ぴんと張り詰めた。
 俺もマスターも、息を止め、唾を飲んでいた。
「――」
 曲が始まった。
 驚愕に、鳥肌が立った。マスターが息を呑んだ。
 優しいような、もの悲しいような。
 胸が締め付けられるような旋律。
 繊細な音と、途切れることのない滑らかな音色が、彼女の世界を表現していた。
 紡ぎ出されるそれは、現実離れしていて。
 突出したそれは、切り離されていて。
 鮮烈に、脳裏に焼き付けられた。
 軽く体を揺らしながら、細長い指を這わせる彼女は、あまりにも美しくて。
 俺は、心の底まですっかり惚れ込んでいた。
「愛の夢……」
 水無月を魂の抜けたように見つめながら、マスターが呟く。額に皺を寄せながら。囁くような声で。それがこの曲のタイトルなのだろう。
「あのお嬢さんとは、一体……どんな風に、過ごしてきたのかね」
 質問の意図がわからず、困惑しながら答えた。
「俺、彼女と今日出会ったばかりなんで」
「そうか……」
 マスターの目は、何故か悲しみを湛えていて。
「……なんて、切ない」
 聞き惚れながら、憐れむように見えた。
 俺にとって、その様子は違和感があるものだった。俺は単純に美しい旋律に感動していた。
 これはきっと、老人の戯言? でも、そんな態度もわかる気がした。彼女の演奏からは、何か迫ってくるものがあった。
「君は……彼女が好きなのかな」
「わかっちゃいますか」
「彼女は……苦労しそうだぞ」
「苦労?」
「まあいい、君は若い……」
 マスターは目を閉じて、そのまま口も閉じた。
 俺はその不可解な言動など無視して、演奏に聞き入りながら、時間の流れを忘れていた。
(つづく)
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